ムシの文化史
虫の文化史 ⑨(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―
薬になる?虫
コダマ虫太郎
民間療法の歴史
「薬になると考えられてきた虫」について。民間療法の中にはかなり怪しいものもあります。また逆に、あとになって科学的に裏付けられるものも少なくありません。実用化に向けて研究中の虫もあります。
「真田虫」
「真田虫」はお腹の寄生虫です。江戸時代には「真田虫の駆除には真田虫の黒焼きが効く」とう説がありました。昔の中国の、「毒を以って毒を制す」という薬学思想が伺えます。しかし、怪しいところです。
「ミミズ」
江戸時代に、ミミズは別名「地竜」(ちりゅう)、つまり、地面の竜と言われ、解熱剤として利用されました。これは、ミミズを乾かしたもので、スープにして飲んだようです。松尾芭蕉も、「ミミズ湯に過ぎたるはなし」と書き残しています。芭蕉の証言なら、効きそうです。
「コガネ虫」
中国では、幼虫の汁は目薬に、潰したものは塗ると外傷が癒えるとされます。
最近、コガネ虫のフェロモンに強い抗菌活性があることがわかってきました。雑菌の多い場所で育つ虫には、殺菌物質を持つものが多いのです。考えてみれば、そうでなければ生きて行けるはずはありません。コガネ虫の汁が眼病や外傷に効くという言い伝えは、案外当たりかも知れません。ただし、汁を絞る前に、コガネムシの体は洗った方が良さそうです。
「冬虫夏草」
子供の夜泣きには、「冬虫夏草」(とうちゅうかそう)も有名です。これは、(冬は虫、夏は草)という意味で、実は土の中の昆虫に寄生したキノコ、つまり‘ムシの死骸付きキノコ’のことです。希少価値が高いので、中国では、今でも高価な漢方薬として流通しています。
「ハエ」
「ウジ」、つまりハエの幼虫は、汚い所に住んでいます。 腐敗した物も平気で食べます。ハエの幼虫は、傷つけても細菌に感染しません。実は、細菌を殺す物質を持っていたのです。
このヒントから、東京大学薬学部が「ザルコトキシン」という、抗菌性タンパク質を発見しました。このタンパク質の良いことは、人間や動物の細胞には、全く影響がないことです.。新しい消毒薬や、食中毒を防ぐ食品添加物への利用が期待されています。
「カブトムシ」
カブトムシも堆肥の中で暮らします。雑菌だらけでよく生きていられます。カブトムシの幼虫の体液ですが、抗生物質が効かない菌に有効です。MRSAといわれる「耐性黄色ブドウ球菌」を死滅させます。
今後、耐性菌治療の抗生物質として注目されています。民間療法の、「コガネムシの汁が傷薬」は、うなずけます。
つづく
次号は、「腹の虫」です。