ムシの文化史

虫の文化史 ⑥(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

虫にかかわる言葉(前編)
コダマ虫太郎

虫を題材にした言葉や格言は随所に見られますが、難しくてもちょっと使えるものを選んでみましょう。

「獅子身中の虫」
「獅子身中の虫」は、時代劇などで使われます。悪い奴的な意味はわかりますが、正確にはどう言った意味でしょう?確かに、現在の会話ではほとんど使いません。
「獅子身中の虫」を直訳すると、「ライオンの体の中の虫」ということです。「身中の虫」というのは寄生虫のことで、獅子に養ってもらっているのに獅子に害を及ぼすから、「味方の中の敵」という意味ですが、裏切り者的で始末が悪い含みもあります。
この例えは、もともとは仏教の言葉で、「仏教の信者なのに仏法に害をなす者」を言いました。
豊臣秀吉の死後、加藤清正・黒田長政らは、秀吉の信頼が厚かった石田光成を、「獅子身中の虫」と呼びました。これは同僚への嫉妬からでしょう。

「バッタ屋」
「バッタ屋」「バッタ屋」とは、元々は、「投売りをする商人」のことです。その後、正規のルートではない商品を、激安で売る商人を言いました。現代では、激安店などダンピング業者を「バッタ屋」と呼びます。
もう少し悪いイメージを持っていた方は、新しい感覚派です。近年、ブランド品のコピーが出回るようになってから、偽物も「バッタ物」と呼ばれるようになりました。
ではなぜ、バッタと言うのでしょう?商品を投売りする様子が、バッタが跳ねるのに似ているからと言われます。バッタ、バッタと投げる音も関係していると思われます。

「蚤の市」
「蚤の市」とは、「古物市」のことです。フランスのパリ近郊が発祥で、衣類の間を蚤が飛び交っていたことにちなみます。英語でflea market.と書くときのフリーは、自由のフリーではなく、蚤のフリー(Flea)です。お間違えのないように。

6-1
パリの蚤の市

「蜂 起」
「蜂起」とは民衆が力を結集して、反乱を起こすことです。 「武装蜂起」とか、ハチが起きる、と書きます。ハチに例えるところは、わりと的確な表現です。ハチは数が多いし、攻撃も半端ではない、そして何より痛い。「蜂起」はただの暴動とは違って、それ相応の止むに止まれぬ理由と大義があります。映画「戦場のピアニスト」は第二次大戦中の「ワルシャワ蜂起」が舞台でした。中国では「チベット蜂起の弾圧」が報道されました。
「農民蜂起」のことを、昔の日本では「百姓一揆」といいました。ちなみに一揆の「揆」(き)とは、「謀りごと」の意味です。
「たくらみ」よりも「蜂起」の方が、正当性が有りそうで、止むに止まれぬ感があるのですが、当時、施政者目線では、一揆は即ち悪事と看做されていたようです。

6-2
被抑圧者の暴力

つづく
次号は、「虫にかかわる言葉」の前編です。

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