伝言板
No.7 人文虫学(私的分類学) ~人と虫との関わり学 (4) ~
経済社会の柵
仏教の世界を除けば、最近になってようやく、人間は生物の多様性によって生かされていることを悟るようになってきました。
一方、今日の文明社会と呼ばれる地域都市では、ほとんど自然との接触なしに人間が生涯を送ることができるという、幻想的な社会がすでに存在します。経済活動に参加して、一定の対価を得ることができれば、自然から隔離されたその安全な幻想社会の一員として暮らすことが許される仕組みです。
そこにあるのは景色ではなく構造物で、光ではなく照明で、風ではなくダクトからの吹き出しで、市場ではなくスーパーで、食材ではなく加工品(飼)です。自然に立ち向かう必要もなく、食糧を育てて収穫し加工する必要もなく、狩りをもせず、虫を追う必要もない。面倒といえば買わないと物が手に入らないことと、経済活動に参加しなければならないことくらいです。一方、必要がなくなった、自然相手の冒険、食糧生産や狩りなどの労働食材加工や調理の工夫などは、今や金と時間がかかる高嶺の趣味となり、庶民はせいぜい、車かアウトドア、ゴルフかテレビかパソコンか、酒や食事でストレスを癒します。
しかし、それは経済の柵の中だけの、多様性とは程遠い閉鎖系の社会に違いありません。虫屋の文明嫌いはどうやらこのあたりに根源があるようです。