おはよう虫太郎
10(6/7放送分)
今日は、他のスズメバチに寄生する、めずらしいハチ「チャイロスズメバチ」のお話の3回目になります。一時期絶滅を疑われたチャイロスズメバチが何故かいま、日本各地で見つかっているという……。
はい。もともとチャイロスズメバチは北方系のスズメバチで、本州中部より北の日本海側に分布するめずらしい種類のスズメバチとされていました。
そのチャイロスズメバチが京都、大阪、鳥取、岡山などで相次いで見つかったわけですが……。
はい。1990年代には17都道府県で分布が確認されていたものが、2009年になると29都道府県にまで広がり、ついに2015年の報告では、32都道府県で確認されるまでに、その分布域を広げました。
アチコチに着実に増えている感じですね。もともとチャイロスズメバチは北方系のスズメバチなんですね。
はい。北部ユーラシア大陸系の種類と考えられていました。
それが南下しているのも気になりますね。寒い地域出身のスズメバチが、急に温かいところに住めるようになるっていうのも変な話ですよね。
そうですね。そもそも本来はチャイロスズメバチのような、在来の希少な種類の生きものが、急速にその分布域と密度を増やしていくケースはほとんどないそうです。
でしょうね~。考えれば考えるほど不思議です。しかも去年、係長もチャイロスズメバチにはじめて遭遇されたということで。
はい。前々から島根県にも「いるかも」とは思っていましたが、さすがに驚きました。
それは驚きますよね。しかし、これで島根県にもチャイロスズメバチが生息していることが確認されたわけですね。
そうですね。そのうちに島根県でもふつうに見かけるようになるかもしれません。
そうなりそうですよね。しかし、どうして絶滅を疑われた、元々北方系のチャイロスズメバチが南下して、急激に増えっていったんでしょう?いろいろと「ふに落ちない」ところがありますよね。
はい。もともとチャイロスズメバチが、おもに寄生していた相手は、モンスズメバチでした。
たしか「モンスズメバチ」と「キイロスズメバチ」に寄生するとおっしゃってましたよね。
はい。そうなんですが、60年前の記録ではチャイロスズメバチのほとんどがモンスズメバチに寄生していたようなんです。
へ~、そうなんですか。
そのモンスズメバチ、じつはその生息密度が減少傾向にあります。
そうなんですか。
はい。モンスズメバチはエサのえり好みがあって、セミをよく食べます。ですから活動期間に安定してセミが捕れる環境でないと生活しづらいようです。
グルメですね~。エサにこだわりがあるんですね。でも、そのせいでモンスズメバチは減っていってるんですよね。
そういうことです。そしておそらくは寄生先である、モンスズメバチが減ることによって、寄生出来なくなったチャイロスズメバチ自体も、その数を減らすことになったのではないかといわれています。
ということはつまり、それが一時期チャイロスズメバチが減って、絶滅を心配された時期ということですか?
そういうことだと思います。
ま~寄生虫が、その寄生先を失えば生きていけないのは当然ですよね。
ですね。そして、それとは対照的にキイロスズメバチは、都市部を中心に増加傾向にあります。
先週のお話で、キイロスズメバチは都市部での活動に適応しているとおっしゃってましたよね。
はい。キイロスズメバチは、巣を作る場所の自由度が高く、たとえば民家の小屋裏のような閉鎖された空間、軒下のような解放された空間のどちらにも巣を作ることができます。
そうなんですか。
ちなみにモンスズメバチは、小屋裏や木のウロなどの閉鎖空間に巣を作ります。あと、キイロスズメバチ同様に都市部に進出したコガタスズメバチは、逆に解放された空間を好み、木の枝などによく巣を作ります。
おもしろいですね。巣を作る場所にまで、それぞれに好みがあるんですね。
はい。ふつうは解放空間に好んで巣を作るタイプと、閉鎖空間に巣を作るタイプにわかれているんですが、キイロスズメバチは、そのどちらにも巣を作ります。
なるほど。巣を作る場所をあまり選ばないんですね。
はい。加えてエサも「なんでも屋」と呼ばれるほど、こだわりがありません。ムシだけじゃなくてたとえば死んだ魚やエビやイカの刺身、さらに焼き魚までエサにします。
これはまた、セミにこだわるモンスズメバチとは対照的ですね。刺身や焼き魚まで食べるなんて。
そうなんです。そして刺身や焼き魚など、生ゴミからでも手に入りますよね。
あ~そうですよね。都市部なら飲食店の食べ残しとか、ゴミに出して捨てていますよね。
そしてゴミのなかには缶ジュースの飲み残しもあります。これを樹液のかわりに利用することもできます。
ジュースの飲み残しまで利用できるんですね、スゴい。
はい。それに加えて秋口に、他のスズメバチの巣を集団で襲って壊滅させるオオスズメバチが都市部にはいないので、なおさらキイロスズメバチにとっては好都合なんです。
なるほど。都市部は巣を作る場所やエサに困らない、さらに怖いオオスズメバチもいない、まさしくパラダイスですね。キイロスズメバチが増えるわけです。
そうなんです。そしてこの増加したキイロスズメバチを、減少したモンスズメバチのかわりに利用して寄生することで、減少傾向にあったチャイロスズメバチが、絶滅を免れたばかりか、逆にその勢力を増したというのが、一連の顛末のようですね。
なるほど。近年チャイロスズメバチが増えたのには、そんなカラクリがあったんですね。
はい。実際にそれを裏付けるデータもありまして、北海道では1990年代では33%であったキイロスズメバチへのチャイロスズメバチの寄生率が、2000年代には64%、そしてさらに2010年代前半には83%と年々増加していることが確認されました。
本当ですね。着実に寄生する相手を、キイロスズメバチにかえていっていますね。
そうなんです。
寄生する相手をかえて、増えたのはわかったんですが、もうひとつ疑問が残ります。チャイロスズメバチはもともと北方系ですよね。それが南下して来ることができたのはナゼでしょう?
それはですね。チャイロスズメバチの北海道と、本州の個体群では、遺伝子の系統が異なようなので、いまのところはアジア大陸から個別に侵入した可能性が疑われています。
北海道から南下して来たわけではなく、大陸から入って来た可能性があるんですね。
はい。詳しいことは、今後さらに解析された続報を待ちたいところですね。
そうですね。続報を楽しみに待ちましょう。
はい。自然は、特定の生きものが突出して増えることを嫌います。キイロスズメバチが、都市部に順応して増えたことに対して、その天敵となるように、チャイロスズメバチが出現し勢力を増したのは、ある意味自然の摂理としては順当なのかもしれませんね。
なるほど。めずらしいチャイロスズメバチが各地であらわれたのには、そういう意味もあったかもしれませんね。興味深いです。はい、ということでお時間となりましたので、今週はこのへんで。