おはよう虫太郎
6(5/10放送分)
今日は、先週に引き続き、シロアリが飛び立たせる羽アリのお話ですね。
はい、シロアリが羽アリを飛び立たせるのは、これを「羽アリの群飛」といいますが、いわゆる巣別れになります。
そうでしたよね。
巣別れというと、ミツバチの分蜂が有名ですから、そちらをイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。
それは、あるかもしれませんね。
巣別れとは、社会性昆虫が、いま生活しているコロニーから出て、あたらしいコロニーを作ることなんです。人間でいうところの分家ですね。
なるほど。子供が家を出て、あたらしく一家を構えることを分家といいますもんね。
はい。シロアリとミツバチ、おなじ巣別れでも、そのやりかたがずいぶんと違います。シロアリの場合は人間とおなじように、群飛した後は単独で配偶者を見つけて、夫婦で一から家庭を築いていきます。
そうですね。くしくも人間の分家とよく似ています。
しかしミツバチの巣別れ、つまり分蜂は、女王バチが働きバチを引き連れて行います。
ときどき分蜂中のハチの集団が、信号機とかに群がってニュースになったりしますよね。
そうです。ただ、この巣から出てあたらしいコロニーを築く女王は、じつは親の立場の女王バチなんです。
えっ子供側じゃなくて、親が出ていくんですか?
はい。そうなんです。
なんかミツバチは、ズイブンと過保護なんですね。
そうですね。巣と半数の働きバチ、さらにじゅうぶんに生活していける環境、すでにできあがった生活基盤を、そのまま子供である新女王バチに託して出ていきますから、ズイブン過保護ですよね。
ですよね~。それに比べたら、シロアリは完全に放任主義というか、シビアですよね。
はい。ちなみに、群飛のときに飛び立たなかった弱気な羽アリは、巣のなかで働きアリ達によって殺されてしまうそうです。
そうなんですか。群飛のときに飛び立てない、気弱な羽アリがいることも驚きですが 家族である働きアリに、殺されちゃうんですね。キビシイですね。
そうなんですが、そもそも守られた巣から飛び出した羽アリ達は、鳥やアリに食べられたりして、そのほとんどが死んでしまいます。
そうなんですか。かなりたいへんなんですね。
はい。あたらしい巣を築くことができる確率は、何万分の一ともいわれています。ですから、巣から飛び立つことすら躊躇するような羽アリは、はじめから生き残る可能性はないのでしょう。
シロアリが巣別れして、あたらしいコロニーを築くのは、そんなにもむずかしいことなんですね。
はい。その分、たくさんの羽アリを群飛させたり、オス同士またメス同士でタンデムを組んだりして、様々な工夫を凝らしています。
「タンデム」は、先週のお話の続きですよね。
はい。「おさらい」しておきますと、運良く出会った雌雄のカップルは、メスの羽アリの後をオスがくっついて歩く「タンデム」を組んで移動していき、よさそうな場所を見つけ夫婦で家庭、つまりコロニーを作っていきます。
その「タンデム」を、オスの羽アリ同士が組むことがあるというから驚きでした。
はい。これはなにもオス同士であたらしい家庭を築くわけではなくて、外敵に襲われた際に、タンデムを組んだ前を歩く羽アリを囮にして、後ろの羽アリは無事に逃げ延びるために、オス同士でタンデムを組んでいました。
後ろの羽アリが卑怯な感じがしますが、これも生き延びるための工夫ですね。そしてじつはメスの羽アリ同士でも、このタンデムを組むことがあるとか。
そうなんです。
オスの場合とおなじような策略があるんですか?
メスの場合は驚くことに、そのままメス同士でコロニーを一緒に築いていきます。
え~、メス同士がですか?
はい。じつは以前もお話したことがありますが、ヤマトシロアリの女王、つまり日本でふつうに見られるシロアリですが。
このあたりにも生息しているシロアリですよね。
はい。このヤマトシロアリの女王は、単為生殖することができます。
単為生殖ですか?
はい。ヤマトシロアリの女王は、精子の受精無しで卵を産むことができます。つまり交尾しないで、単独で卵を生むことができます。
スゴイそんなことができるんですね。
はい。本来は女王アリの分身を生みだすために、この単為生殖は用いています。
女王アリの分身ですか?
はい。コロニーの規模が増加することで、女王アリは産卵する速度を上げていかないと、コロニーは効率的に成長していかないですよね。
そうなんですか?
たとえば会社でいいますと、中小企業より大企業のほうがその経営は安定しますよね。
たしかに。
それとおなじで、コロニーも小さいより大きいほうが、生活は安定します。
なるほど、そうなんですね。
そのために、女王アリは働きアリを量産して、コロニーを成長させなければなりません。そこで、ヤマトシロアリの女王は単為生殖を使って、自身の分身をたくさん生みだすことで産卵する速度を上げていきます。
そうなんですか。
はい。ヤマトシロアリの女王は、一日に25個の卵を産むことができるそうです。それを10匹の分身の女王で産めば250個になりますよね。
なるほど。卵を産む女王アリ自体の数を増やして、働きアリを生みだすスピードを上げて、コロニーを大きくしていたんですね。驚きます。
はい。メス同士のペアの場合も、この単為生殖を用いて働きアリを生みだし、巣作りしています。
そうなんですか。スゴイですね。あれ?ということはべつにメスの羽アリは、わざわざペアにならなくても単独で巣作りできるんじゃないですか?
はい。もちろん最悪の場合は、メスの羽アリが単独で巣作りを行うこともありますが、大抵の場合は病気にかかり死んでしまいます。
そうなんですか。一匹では病気にかかりやすくなるんですか?
はい。シロアリが住んでいる朽木や土壌は、さまざまな病原菌の温床でもありますから、シロアリは絶えず抗菌性の唾液でグルーミングして、体を清潔に保つ必要があります。
そういうことですか。たしかに土壌や朽木のなかは不潔ですよね。
はい。しかしシロアリは単独では、体のすみずみまでキレイにグルーミングできないので、かならずグルーミングし合うパートナーが必要です。
なるほどね。体を清潔に保つためには、ペアでの巣作りが必須なんですね。
そういうことです。もちろん、メス同士の巣作りはシロアリにとっては「次善の策」であり、本来はオスとメスの羽アリが巣作りを行うことが最善になります。
ということは、オスの羽アリに出会えずに、仕方なくメス同士で巣作りするわけですか?
はい、そういうことです。どうしても単為生殖で生まれる個体はひ弱になり、巣作り当初のストレスに、たえられないだろうといわれています。
そうなんですね。単為生殖で生まれてくると、ひ弱になるんですね。
はい。単為生殖の個体は本来コロニーが、ある程度できあがった後に、女王アリから生殖を引き継ぐために生み出されます。つまり卵を産む仕事以外はしなくていい状況です。
そういうことですか。それじゃ働きアリとして生まれて、いろいろな仕事をこなさないといけない状況では、むずかしいんじゃないですか?。
はい。働きアリを生み出すのに、単為生殖をつかうのは無理があります。
それにもかかわらず、羽アリはメス同士で巣作りするんですね。
そうですね。できるできないにかかわらず、その状況で自分のすべきことを、ただ淡々とこなす、そんな印象ですね。
たしかに。そういう感じですね。私達人間も見習わないといけませんね。はい、ということで、シロアリの羽アリのお話でした。