ムシの文化史

虫の文化史 ⑯(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

「蛙(カエル)」の話
コダマ虫太郎

「カエル」の意味
カエルは漢字で書くと「蛙」。虫偏(へん)に土を二つ書きます。これを中国では、「あ」と発音します。英語の「フロッグ」は、ドイツ語の「フロッシュ」の流用で、喉を鳴らす意味です。いずれも、鳴き声に由来します。
一方、日本語のカエルの意味は、卵からかえる、「孵化する」という意味です。また、卵からオタマジャクシ、オタマジャクシからカエルと、二度も姿を変えます。「姿を変える」という意味も含まれています。

「カジカ」の音
古く万葉の時代には、「カワズ」というと、今で言う「カジカ蛙」を指していました。鳴き声が綺麗なので、和歌にはよくカワズが出てきます。この頃は、春のカエル、秋のカワズと区別していました。
江戸時代になると、「カワズ」も「カエル」もカエル類の総称になってしまいます。
一方、「カジカ」という名前は非常に新しくて、江戸の俳人が「川の鹿」になぞらえて名付けたようです。その頃は、その声の実態がよく判らなかったので、ハゼ科の魚の名前にもなりました。「川の鹿」から「カジカ」です。豊かな(風流な)感性です。

見せたがる「腹」
あの、膨らんでツルツルした「蛙のお腹」。世界中の動物図版でも、お腹を出したポーズが描かれています。 日本でも例外ではありません。イソップ物語にも、お腹を膨らませすぎて破裂するカエルの話があります。自分を大きく見せようとすることへの戒めです。
理由はともかく、カエルの腹は、人間にとって、限りない関心を誘うようです。しかし、本当はカエルが仕組んだ「罠」なのかも知れません。というのも、威嚇する時の「腹だし」や、普段のポーズからも、そう感じます。カエルの「見せたがる罠」に、まんまと人間がはまっているのかも知れません。

16-1
カエルの腹のネックレス

食べない国の言い分
カエルはどこの国でも身近過ぎて、食べられることも多く、薬や遊び道具にもされました。フランス料理のメニューや、オランダの食材にも登場します。面白いのは、イギリスの学問書では、こうした所見に注釈を付けるのを忘れないことです。「イギリスでは決してカエルを食べない、フランスだけの話」と書かれます。ある種のいやみでしょうか。

ヒキガエルの精
「ガマ」と呼ばれるカエルで、主に陸上で生活します。
西洋では、「忌まわしいもの」として、東洋では「魅惑的な」存在として扱われます。
中国や日本では、耳腺から出る防衛用の乳液は、皮膚の疾病や創傷の薬として用いられ、「陣中膏(こう)ガマの油」は、販売の台詞(せりふ)が有名です。
水神や地霊として祀られることも多く、麻布十番稲荷には巨大なガマの置物が祀られ「火除けのお守り」が手に入ります。江戸末期、元麻布に旗本の山崎治正の屋敷がありました。近くのガマ池の主が老人の精となって現れ、当家の家臣を殺したことを詫びて、防火に全力を尽くすことを約束しました。文政の大火でも当家は延焼を免れたことによります。

つづく
次号は、「蛸の話」です。