ムシの文化史

虫の文化史 ⑪(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

「蛇(へび」の話
コダマ虫太郎

蛇が天敵の方も多いでしょう。しかし、怖いもの見たさから、興味は人一倍。直接遭遇は御免だが、高みの見物は大好きという人も、きっと多いはずです。

「蛇」の名前
ヘビは漢字で書くと、虫偏に、ウ冠(かんむり)の下に「ヒ」で、它(だ)と書きます。它とは、ヌルヌルしてとぐろを巻くものの意味です。
日本語の「ヘビ」は、地面を《這う》とか、咬む意味の《咬(は)む》から来ています。つまり、「ハム」から「ヘビ」に変化したようです。
日本で噛み付くヘビの代表といえば、「マムシ」です。本来、ハムやヘビは「マムシ」だけを指していたようです。その証拠に、島根県の石見地方などの方言でマムシのことだけを、「ハミ」といいます。つまり、「マムシ」こそが日本のヘビの代表なのです。

超動物である
ヘビは敬遠される一方で、人間にとって「とても気になる存在」でもありました。聖書で、イヴに林檎(リンゴ)を食べるようそそのかしたのも、ヘビです。
気になる理由は、「超動物的」ともいえる「特異性」にあるようです。ウナギのように長いけれどヒレがない。トカゲに似ているが足がない。虫のように地面を這うのに、肺で呼吸する。運動能力といえば、水・陸はもちろん、木登りも達者にこなす。感覚器官も、五感の他に、二つに割れた舌は、環境分析のセンサーになっている。
ほかの生き物とは大きく違う点で、ある種「孤高な生き物」といえます。

特殊性と怖れ
一口で言えば、ヘビは「不思議な生き物」といえるでしょう。ヘビが、自分の尻尾(しっぽ)を飲みこむ図があります。その結果は、消滅を連想させますが、同時に「自己完結」も暗示します。学者の中にも、「厳密には、ヘビは爬虫類ではない」という人達がいます。「ヘビ嫌い」の真因は、その特殊性への怖れにあるようです。

11-1
薬学・医学の象徴

「怖い」ということ
人によって、色々な物を怖がります。その大方は、他愛のないものが多いようです。たとえば、三島由紀夫は水玉模様が、三船敏郎は石灯籠が苦手でした。逆に、重大なことを、深刻に怖がった例もあります。
昔、中国で、「天が落ちてこないか」と皆が心配して、仕事も手につかずに滅びた、杞(き)という国があったそうです。「杞憂」という言葉の謂われです。
もしかして、戦争が起こるのではないか? このまま寝たら目が覚めないのではないか?そんな、生死に関わる深刻なことばかり怖がっていたら、身が持ちません。
人間に何かしら、つまらない弱点が有るということは、深刻なことを怖がらないための、一種のダミーなのかも知れません。つまらない物を怖がっている限りは、実害が無いから、不幸にはなりません。そう考えれば、理由も無く怖いもの、を受け容れることが出来ます。
筆者の場合、「ヘビが怖いのは幸せに暮らせるためなんだ」、そう思うと、恐怖ではあっても弱点ではないと思えます。そう哲学しても、実際に遭遇すると、硬直するのです。

つづく
次号は、「蚤の歴史」です。