ムシの文化史

虫の文化史 ⑦(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

虫にかかわる言葉(後編)
コダマ虫太郎

「蟷螂(とうろう)の斧(おの)を以って隆車に向かう」
これは真面目な格言です。蟷螂(とうろう)とはカマキリのこと。 隆車(りゅうしゃ)とは大きな車、あるいは皇帝が乗る車です。「カマキリが、鎌で、皇帝の車に刃向かう」という意味です。
自分のわずかな力量を過信して、大敵に刃向かう愚かさ、の例えです。現代の中国では、蟷螂は「当たり屋」の隠語です。

「蟷螂の斧を以って隆車に向かう」。復唱してみましょう。誰かに使えそうな格言ですね。ただし相手次第では、レッド・カードかも知れません。使うときは、相手を選んで慎重に。     

7-1
カマキリ隆車に立向かう

「蓼(タデ)食う虫も好き好き」
辛いタデ科の植物でも、コガネムシ類は好んで食べます。「人の好みも好き好き」という意味です。ちなみに、谷崎潤一郎の「蓼食う虫」という小説があります。複雑な男女の世界を描いた作品です。確かに、「どうして―!?」、と思うような他人の「好み」はよく経験します。こんなとき、詩人の 金子みすず なら、「みんな違って、みんないい」というところかも知れません。多様性こそ生命存続の原点なのですから。

7-2
白花桜蓼(タデ)

「すがるおとめ」
「すがる」とは、アシナガバチの古い呼び名です。「おとめ」は、今でも少女の意味です。「すがるがるおとめ」は、ハチのようにウエストが細く、スタイルのいい少女のこと。万葉集時代からの言葉ですが、綺麗で響きの良い言葉なので、今でも使われます。一度使ってみるといいでしょう。ただし、二十歳過ぎには使えませんよ。

「極楽トンボ」
おなじみの「極楽トンボ」です。「浮かれポンチ」や、「いかれポンチ」のことで、意味は「バカ」のことです。
しかし、極楽浄土の上をフラフラと飛んでいるトンボ。なんだか飄々(ひょうひょう)としていて、いい感じで、羨ましいことです。このトンボは、どうやら秋空を高く飛ぶ、アキアカネのようです。長渕 剛の歌にも登場します。

「オケラ」
一文無しのこと。オケラが仰向けに両手を広げた格好と、お手上げが合わさった言葉といわれます。

「玉虫色」
見方次第でどうにでもとれることの例え。「玉虫色の決着」など、うやむやで悪い意味に使うことが多い言葉です。
タマムシの羽は、「構造色」と呼ばれ、光の入射角度で色が違って見えます。だから色が褪せず、国宝「玉虫の厨子」は輝き続けます。CDディスクの輝きも構造色です。構造色を利用したデザインの繊維も登場しています。

つづく
次号は、「虫と文学」です。