伝言板

No.4 人文虫学(私的分類学) ~人と虫との関わり学 (3) ~

虫の音を愛でる文化

虫を栄養源の一つとしてきた人間も、いつか虫の音(ね)に耳を傾け、詩歌を吟ずるまでの情緒的な文化を形成するようになりました。
虫の音を愛でる理由には、単純に音色による以外に季節感や雰囲気を感じる感性、小さく短命な生き物を慈しむ優しさや、配偶者を求める恋の歌への共感、精霊がチョウ(蝶)に姿を変えるといった地域信仰的なイメージなど、極めて繊細で高度な感性が関与します。
日本ではすでに「万葉集」の時代から虫の音を愛でる文学(詩歌)がありました。西欧の昆虫文学では観察記が多いのに対して、日本では感性的に虫を描くのが普通です。江戸時代には「虫屋」(虫を売る商売)が定着し、庶民も虫の音を愛でていました。

自然界における現代科学のスタンス~草木一本創れない~
虫(自然界)に学ぶ科学

機械と動力の大変革と進歩、いわゆる産業革命(18世紀後半~)は、工業生産によって都市化をもたらし、農業においても「機械による資本主義的な生産」をもたらしました。こうした生産物の創出という大脳の働きが優先する文明社会では、生産される商品が興味(欲望)の対象になりやすく、虫や自然への畏敬もその例といえましょう。
しかし、人間の経験や知見だけに拠る創造(想像)に限界があることも確かです。単細胞の創作(加工ではなく)にも程遠い現在の科学技術は往々にして生物や自然界から学ばざるを得ません。例えば、「ハチの巣」のハニカム構造が生む高強度、「蚕(かいこ)の絹糸」を目指した合成繊維開発の歴史、「竹の繊維分布」による強靭さとしなやかさの融合、「玉虫の羽のらせん組織構造」による染料を使わない着色法など、生態を模倣することによって環境に自ら応答し、機能を発揮するインテリジェント(知能)素材の開発も始まっています。(つづく)