ムシの文化史

虫の文化史 ⑰(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

「蛸(タコ)」の話
コダマ虫太郎

「蛸」はテコから
タコを漢字で書くと、虫偏に、肖(しょう)と書きます。英語の「オクトパス」は、もともとラテン語で、「八本足」のことです。日本名の「タコ」は、新井白石によると、タコの「タ」は「手」で、「コ」はただの助詞。つまり、「ワンコ」とか「ニャンコ」と同じ感じの「テコ」です。手が多いかから「タコ」で、割とカワイイ名前といえます。
欧米では、「デビル・フイッシュ」(悪魔の魚)と呼ばれることもあるタコですが、日本名の「タコ」は愛称に近いようです。

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蛸模様の水差(DC1500)

タコの美食
タコの好物は、なんと言って「エビ」や「カニ」などの甲殻類や貝類で、結構美食家です。もしかして、八本足では魚よりも捕まえやすいのかも知れません。一方、エビにしてみれば、タコは天敵で、自分と同じ網の中にタコが居ると判っただけで、恐怖で死ぬ、とも言われます。

タコの獲り方
死ぬ程ではないにしても、確かにエビはタコに「慌てふためき」ます。それを利用した伊勢エビ漁が、三重県の田曾浦(たそのうら)にあります。サオの先にタコをつけて、エビの穴にかざすと、伊勢エビは驚いて飛び出すので、それをタモで捕らえます。地中海では、オリーブの枝を揺すって、タコをおびき出します。オリーブの葉の裏は銀色で、小魚の群れに似ているから、タコの食欲をそそるようです。

魔物としてのタコ
タコは世界中で食べられていますが、「悪魔」とも同一視され、devilfishの名が一般的です。日本でも、食べる割には「魔物」としてのイメージも強く、蛇が海に入ってタコになことがある、とされる伝承が、壱岐、備後、若狭、越前、能登、佐渡などの日本海側に広く残っています。

クラーケン
海賊が活躍した時代には、「クラーケン」という巨大なタコが恐れられました。何しろ、狙われたら当事の軍艦でも、海底に引きずり込まれるわけですから。二〇〇年程前、フランスの博物学者が発表したので、話が広まったようです。この、モンフォールという学者は、捕鯨船の目撃談を大々的に取り上げたので、学会のヒンシュクを買って、晩年は貧困のうちに亡くなりました。実際に目撃されたのは、一〇mクラスの「ダイオウイカ」だったようです。十八世紀は「未知への憧れ」が冒険心を掻き立てた、良き時代だったのかも知れません。

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帆船を襲うクラーケン

「虫の文化史」終わり