ムシの文化史

虫の文化史 ⑬(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

「ゴキブリ」の話
コダマ虫太郎

名前の由来と変遷
お馴染みの「ゴキブリ」ですが、その名前の由来は、「五器かぶり」から来ています。 五器とは蓋(ふた)のついた食器。「かぶり」はかじる意味です。つまり、「食器かじり」です。「ゴキブリ」というと今では標準語ですが、昭和二〇年以前は方言でした。戦前は全国的に「アブラムシ」と呼ばれていました。今でもたまに「アブラムシ」という地域もあります。どうして呼び方が逆転したのか判りませんが、農業害虫のアブラムシと区別するため、報道で自主的に区別したのかも知れません。

黒船で来航したゴキブリ
今日、日本に生息するワモンゴキブリは、江戸末期の黒船来航によってアメリカから持ち込まれたとする説もあります。そのせいか、ペリーの拠点になった小笠原諸島には、この種がとても多いのです。ワモンゴキブリは、日本西欧化の象徴かも知れません。

薬だったゴキブリ
ゴキブリ類は昆虫の中でも、最も古くから世界中にいました。にもかかわらず、古代から中世にかけて、ポピュラーな存在とは言えず、害虫としての認識はなかったようです。
かつて、ゴキブリは世界中で薬として利用されていました。西洋では、粉末にしたものを「タラカネ散」と呼び、肋膜炎の民間薬として用いられ、現在も利尿剤として水腫の治療に使われます。アメリカの黒人社会では、「ゴキブリ茶」として、破傷風や体調不良に効くとして飲まれました。中国ではもちろん、漢方薬の、秘薬として、古くから通経剤や夜泣きの薬として用いられます。
ゴキブリは守護霊や幸運のしるしと看做す地域もあり、社会の都市化と過密化によって増え、問題視され嫌われ始めたたようです。

嫌われ者への差別
嫌われ者のゴキブリらしい「俗信」があります。「ゴキブリを殺したら、伊勢神宮にお参りしたほどの功徳がある」。これは、昔から日本の各地にある言い伝えです。殺生を好まない日本人にしては、特別な言い伝えです。
出雲地方には、同じようなゴキブリ伝承があって、小泉八雲は、《日本瞥見記》で伝えています。「この虫を殺せば、眼病を治してくれる一畑という薬師如来に、功徳を積むことになると信じられていた」、と。全国的には伊勢神宮で、出雲では一畑薬師に功徳です。出雲地方だけは、この話を地元で自己完結させてしまいました。

コガネムシはゴキブリだ
野口雨情の童謡に、「黄金虫」というのがあります。「黄金虫は金持ちだ、金蔵立てた蔵建てた」という歌詞です。ここに出てくる「黄金虫」というのは、実は「ゴキブリ」らしいのです。ほぼ間違いないと思われるのは、野口雨情の故郷は北関東ですが、古くから「チャバネゴキブリ」を「黄金虫」と呼んでいます。それに、「黄金虫が増えると金持ちになる」という言い伝えまであります。今度、「黄金虫」を歌うときは、ゴキブリを連想してみてはどうでしょう?いや、事実よりも、夢が大切です。ここだけの話にしておきましょう。

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野口雨情の生家(茨城県)

つづく
次号は、「日本人とトンボ」です。