ムシの文化史

虫の文化史 ⑤(虫偏のムシ) ―人と虫が奏でる文化―

ムシを食べよう
コダマ虫太郎

食虫の勧め
虫には食べると美味しいものが沢山あります。世界中で食されていることがこれを証明してます。しかし、残念なことに、小型過ぎることが災いして、食べにくい、調理が大変、安定的な供給が難しい、そして何より姿が露骨といった大きな普及の障害が横たわっています。
たとえ普及の障害があるにせよ、いや、普及していないからこそ、食通を自負する人なら、あえて虫の味を追求すべきではないでしょうか?かつて、北大路魯山人がサンショウウオや亀など、流通していない食材を試したように・・・。率先して虫の味を試してこそ、真の食通と言えるのですから。そう考えると、テレビの食べ歩き番組も、所詮は食通レベルの尺度からは低いと言えそうです。

蜘蛛(クモ)は陸のカニ
美味しさの代表は、なんといっても「蜘蛛」でしょう。クモは間違いなく美味しい食材です。世界のあちこちで食べられていますし、節足動物の中でも一番「カニ」に近縁で、形も似ていますから、美味しくない訳がありません。
姿かたちがブレーキになりますが、一度形と味が脳に刷り込まれてしまえば、クモを見ただけでヨダレ物でしょう。しかし、そこまで到達するきっかけは、日本にいる限り、まず無いことでしょう。それでも、大型の蜘蛛がいる地域や、味の判る食通は好んで食べています。肉のところだけ「剥(む)き身」にして黙って出せば、カニだと思って舌鼓を打つこと間違いなしです。
調理方法は、炒めた方が良さそうですが、実は蜘蛛は塩焼きが一番美味しいのだそうです。

イナゴは高級品
さて次は、かつては庶民の味、今は高級品の「イナゴ」です。今では珍味として高級品で、たまに都会のデパートに並ぶと、一〇〇グラム数千円クラスです。
江戸時代は、「イナゴの蒲焼売り」がいて、串に通したイナゴを醤油につけて焼きます。焼き鳥と同じで、子供がおやつとして買いました。
明治時代に大森貝塚を発見したエドワード・モースも、川越でイナゴの佃煮を食べて、「小エビに似た味で美味しい」と書いています。

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高級食品「いなごしぐれ煮」

「ハチ」は秘密のご馳走
次は、間違いなく美味しい、ハチの幼虫です。食べ方は、煎(い)るのが一般的ですが、バター炒めも美味しい。また、あらかじめ味付けをしたハチの幼虫を、炊き上がったご飯に放り込んで、蒸すのが、「ハチの子ご飯」です。 味を覚えたら病みつきです。これは、長野県民「ヒミツの御馳走」です。ただし、蛹(さなぎ)になる直前の幼虫でないといけません。
ハチの幼虫や蛹は、釣り餌にも使われて、「食いが良い」といわれます。しかし、海の魚が山のハチの子の味を知る訳でもないので不思議です。魚は、珍しいものが好きなのか、単に獰猛(どうもう)なだけなのかも知れません。
食材を見つけることは、経済社会が供する餌(えさ)だけに満足しない、独立心にも通じる探究精神の顕れとは思いませんか。

つづく
次号は、「虫にかかわる言葉」の前編です。